研修
笠原小学校の夏の校内研修は3日間あり、先生方が講師役になって、いろいろなテーマで講義や演習を行い、対話や協議に移っていきます。とても主体的で学びが多い研修だと感じます。生徒指導主任のこんな話が印象的でした。「学年が集まったときには、若手の教員が叱り役でした。学年主任を前に出すなと言われていました。厳しく叱ることが指導力だと、当時は思っていました。」
ゼロトレランス(毅然とした対応)方式が、もてはやされた時期もありました。厳しさを良しとする考え方は、教育現場にまだ残っているように感じます。
本校では、ポジティブな行動支援(Positive Behavior Support)のやり方で、ほめて子どもたちの行動を変えることを試みています。生徒指導主任は、「注意する・叱ることはしてはいけないのか」という問題提起をしてくれました。
4月当初に、校長として「子どもたちを頭ごなしに叱ること」をやめるようにお願いしました。本校の先生たちは、大声で子供に怒鳴ったり、叱責したりすることはありません。
しかし、叱らないことで子どもたちに舐められる、軽んじられると心配している方もいるかもしれません。もし、そうならば、村中直人さんの本を読んでほしいです。
叱ることは教師が考えるほど効果がありません。「あなたのためを思って叱っている」は、ウソです。叱る人にとって快感なので、叱る依存が止まらないのだそうです。衝撃的な内容でしたが、納得しました。
園と小学校との接続
小学校は、夏休みに入りました。先生方にとって、一息つけるうれしい時期です。(幼稚園も同様)
ところが、こども園や保育園ではそうはいきません。土曜保育もありますし、夏休みすらありません。お盆期間中の閉庁日もとれないでしょう。それは、2号や3号の子たちだからです。
幼児教育に携わることになった当初の私は、理解できない専門用語ばかりでした。「1号、2号、3号」(これに「新」が付くこともある)は、サンダーバードや仮面ライダー、パーマンのことではありません。(また昭和レトロの癖が出た・・・)
1号は、幼稚園の子。2号は保育園の子。3号は3歳未満の子。園の給付認定は3つの区分(1・2・3号)に分かれていて、認定区分によって利用できる施設や入園手続きが異なります。こども園では1つのクラスに1号の子と2号の子がいて、1号の子だけが夏休みになります。3号の子は、「未満児」とか「未満ちゃん」とか呼ばれていましたが、保育園枠なので夏休みはありません。1号と2号の子は、3歳以上なので「以上児」と呼ばれています。
小学校の職場環境はブラックだと言われることもありますが、長期休業中には、かなりゆったりと休暇を取ることが可能です。しかし、こども園や保育園は、小学校の先生のようにまとめて休暇を取ることが難しいです。しかも、早番、遅番、土曜勤務のように通常の勤務時間も変則的です。公立園の保育者は、選挙事務や避難所運営などを担当することもあります。深夜まで投票箱の開票作業に携わり、翌朝出勤ということも起こりえます。小学校の教員以上に、公立園の保育者は大変だと感じました。
笠原小学校の先生方には、夏季休業中の余裕があるときに、「笠原こども園」の様子を見に行ってもらいたいと思っています。そのときは、園に併設されている「児童クラブ」で過ごしている小学生にもぜひ声を掛けてあげてください。
授業
みなさんは、学校の勉強が楽しいですか? 何のために小学校で勉強するのだと思いますか?
校長先生は、「ドラえもんのようになるため」だと考えます。教科書で学んで覚えたこと(知識・技能)は、ひみつどうぐです。勉強すると、みんなの中のひみつどうぐが、増えていきます。でも、ひみつどうぐの中には、よく使うものとめったに使わないものがあります。学校の勉強でも、大人になってめったに使わないものもふくまれています。だから、勉強しなくてもいいのでしょうか。
もし、「タケコプター」と「どこでもドア」しか持っていないドラえもんがいたら、だいじょうぶでしょうか?
ひみつどうぐをたくさん持っていても、じょうずに選べないドラえもんは、困ります。空を飛びたいときに、「スモールライト」を出してもダメなのです。小学校の勉強では、どのひみつどうぐがいいのかを考え、判断し、使う力(思考力・判断力・表現力)も身に付けていきます。
ひみつどうぐがふえて、じょうずに選べるようになってもまだダメです。ネコ型ロボットは、のび太君を助けるのが一番大切なのです。
みなさんも、学校で勉強して知識や技能が増え、知識を上手に使えるようになっても、最後に自分や社会の役に立てなければダメなのです。これを「学びに向かう力、人間性」といいます。
「知識・技能」、「思考・判断・表現」、「学びに向かう力、人間性」という3ポイントを一人一人チェックして先生方がつくったのが、今日もらう「つうしんぼ」なのです。たくさんひみつどうぐを増やして、上手に選んで使い、自分や社会の役に立つような「ドラえもん」を目指して、これからもがんばりましょう。
大きな事故やけががなかっただけで、校長先生は大満足の1学期でした。楽しい夏休みを過ごしましょう。(7月19日 終業式の校長の話)
教室に居られない子と校長室で話をしていたときに、「どうせこんなことを覚えても無意味」「学校の勉強なんて役に立たない」と言われました。この子だけでなく、ほかの子の中にも、何のために学ぶのかを意識しないまま、教室にいる子がいるのでは、と思いをめぐらせました。それで、終業式の話のテーマとして、通信票を選びました。
「何のために学ぶのか」という目的を意識してもらおうと意図したつもりです。「100点をとるため」や「いい学校に入るため」は、目的ではなく目標です。
社会自立し、よりよく生きるための術(すべ)を子どもたちに身に付けさせるのには、時間がかかります。義務教育の9年間はそのためにあります。工場で作られたときには資質・能力が備わっているネコ型ロボットのようにはいきません。
「知識・技能」「思考・判断・表現」「学びに向かう態度、人間性」は、幼児から大人になるまでずっと育まれていく、資質・能力の3要素なのです。
特別支援教育
本校では、通常学級に在籍していて、学校生活や学習に困難が伴う一部の子に対して、「特別扱い」をしています。無理をさせず、叱責しないことが基本です。その子が頑張れるための、環境調整を可能な限り行っています。いわゆるグレーゾーンと言われるような子たちで、学校での支援が難しいとされています。「誰一人取り残さない」が、スローガンのみにならないように、チーム学校で対応をしているところです。
「特別扱い」が、「あの子だけずるい」につながらないように、きちんと伝えたほうがよいと考え、個人が特定されない範囲で、説明しようと思います。
【事例1】
・教室に入ることが難しい算数と社会科の学習は、少人数または個別指導で対応。級外教員か支援員が付く。
・その他の教科等でも、どうしても教室にいられない場合、担任に伝えたうえで、校長室または保健室で対応。本人には否定的な言葉がけをせず、できたことを認めるようにしている。
・保護者との面談を行い、校内でのケース会議を経て、対応を決定した。初めに特別支援教育ありきではないので、特別支援コーディネーターは、ケース会議に加わらなかった。
・スクールカウンセラーとの個別面談や取り出しによる日本語支援は継続中。
・ただし、就学支援も同時進行で進め、特別支援学級への入級の可能性も探っている。
【事例2】
・無気力または、学習についていけず、授業妨害に近い態度が見られることがあったため、頻繁に授業巡視を行い、複数人の目で状態を観察した。学級全体にも良くない影響が出始めていると判断し、対応を開始した。
・本人には「教室にいるのがつらいときには、別室で過ごしてもよい」ことを伝えた。保護者にも連絡をして、承諾を得た。夏休み中にケース会議を実施予定。
・自分から教室を出なかったり、その場を動かなかったりしたときには、担任以外の級外職員で対応して、クールダウンを行った。校長室でじっくりと話を聞くこともあった。
事例1の子も事例2の子にも共通していたのは、自己肯定感がかなり低いことでした。困った表れへの対処だけでは、問題は解決しないと感じます。学級編成替えがなく、人間関係が固定化していることも一つの要因ですし、愛着形成を含む家庭での問題も関係しているかもしれません。
私が今まで勤務した小学校の中でも、本校はかなり安定して落ち着いています。不登校や問題行動はほとんどなく、全校児童も少ないので目が行き届きます。
半面、単学級で職員数が少ないので、学級経営上の困り感を同学年の先生と共有したり、相談したりできません。学年のことは自分一人で判断して進めがちです。担任を支えるためにも、生徒指導主任、教務主任、教頭、そして校長の先回りのサポートが不可欠だと思います。
防災
以下は「ウエザーニュース」の記事の引用です。
静岡県掛川市は7月16日(火)4時29分、土砂災害発生の危険性が高まっているとして、上土方地区(かみひじかたちく)の341世帯995人に警戒レベル5「緊急安全確保」の避難情報を発令しました。(7時15分解除)
掛川市に隣接し、土砂災害警戒区域が敷地内にある本校では、児童の登校前に安全確認を行いました。三沢川の水量が増し、濁流が流れていましたが、児童の登校の安全が図れると判断しました。平左エ門橋に校長が立って児童の登校を見守りました。
歩行者用の橋の幅が約3m、川を流れる木片が5秒で通過しました。秒速0.6mくらいの流速です。
校地内の遊水池の水量が増えています。
正門へと上がる坂道の崖は、上の茶畑から水が流れ出ています。
崖崩れの兆候が見られ、危なくなったら、正門に上がる坂道をコミュニティーセンターのところで封鎖します。
なんとか、子どもたちは無事に登校できました。
8時40分に地区の連合自治会長から、校長に電話がありました。「南区の住民の車を学校の駐車場に避難させてほしい。」とのこと、聞けば、過去のたなばた豪雨(昭和49年)でも水がつかり車をダメにしたので、大雨で水位が上がったときには、高台にある学校の駐車場に車を移動させてもらっているとのことでした。
弁財天川(三沢川)は天井川なので、南区のあたりで家の建っている土地の高さよりも川底の水位の方が高くなっています。
特別支援教育
「特別扱い大いに結構」が、笠原小インクルーシブのやり方です。
本校の通常学級には、みんなと一緒に学習することが難しい子が何人かいます。自分勝手なことをしたり、授業の妨害をしたり、教室に居られなかったりします。そういう子に対しては、特別扱いするように指示しています。できていないことを無理にやらせようとしても、今より状況が良くならないどころか、逆に悪化することがあるからです。
「〇〇さんだけ特別扱いできません。」「それは、甘えやわがままです。」「一人なら何とかなりますが、〇〇さんのような子が何人も出たら対応できません。」とかいう声も聞かれました。
それでも、特別扱いをお願いしました。無理な部分は、校長が引き受けて納得してもらいました。そのほうが、担任にとっても、その子にとっても、幸せな状態を保てるからです。どんな特別扱いをしたのかについては、次回。
授業
5年生の算数の学習で、「かける数が1より小さいときは、積はかけられる数より小さくなる」の理解が難しいと感じた。子どもたちは小数倍の意味をイメージできるだろうか。
たとえば、4✕3=12なので、積である12は、4より大きくなっている。かけ算は同じ数のたし算だから、4✕3=4+4+4=12で、イメージできる。
しかし、4✕0.3の場合はどうだろう。たし算でイメージすると
4✕0.3=4+??????? (私には わからん)
校長は考えた。いろいろ考えた。うんと考えた。
【例題】1mが4gの重さのはりがねがあります。このはりがね0.3mの重さをもとめなさい。
式 4✕0.3=1.2 答え1.2g
小数倍のイメージは困難である。ならば、もとにする量を1ではなく、0.1にすればよいのでは・・・・ 1mが4gの重さのはりがねは、0.1mならば0.4gになる。0.3mのときの重さは、0.4✕3の式で求めることができる。やった! たし算でできるし、不自然な感じがしない。(私には)
4✕0.3=4÷10✕3=0.4✕3=0.4+0.4+0.4=1.2
やはり、小数倍であっても、かけ算はたし算なのだと思う。計算が解けるだけでなく、考える作業が楽しくなると算数や数学が好きな子が増えるのではないか。
時間に追われて学習進度を調整するので手一杯かもしれないが、先生方には、子どもたちに考える機会や時間を生み出してほしい。